簿記

卒業したら就職するものだと当たり前に思っていました。
でも特にやりたいこともなく、何となく働きはじめた頃。半世紀近く前の思い出です。
学校を卒業して初めての仕事。電話番・お茶汲み・簡単な経理事務。1日が長くて退屈。午前中は窓の外を眺めて過ごし、お昼時間が待ち遠しかった。午後3時までは眠気を堪えるのが一仕事。そして午後5時が待ち遠しい。

与えられた仕事にもさほど興味も湧かず、その先を考えることもしなかった。最低限のことをこなすだけ。そんな思い出しかありません。受け身で退屈な時間を約2年間過ごし、仕事はつまらないものという観念がしっかり定着した20代でしたが、この経験はその後の仕事に対する考え方にずっと影響を及ぼすことになります。

毎日退屈な仕事で暇を持て余していた私は、友人の影響で夜間の簿記学校に通い始めました。友人は会計の仕事を目指していたからです。簿記の話はなんとなく面白そうで、将来私もその役に立てればと言う軽い思いつきでした。学校は夜6時から始まりました。年齢も性別も関係なし、学生も社会人も様々です。
会計士や税理士を目指す人が大半で、久々の緊張感が新鮮だった記憶があります。
経済系の知識は全くなく、簿記はその第一歩。

利益は期間で計算すること、財産状況は地点で計算することなど、経済活動の基本を学ぶことは現実的で楽しく、一気に学べた思い出があります。数字で表現すること、貸借と言う考え方で数字が一致して答えがひとつしかないことも自分の未来に曖昧さしか見いだせなかった当時の私には救いでした。私は簿記の魅力に引き込まれていきました。友人の影響で始めたことでしたが簿記の考え方はその後の会社経営にもそして物事の考え方にも長年にわたり生かされています。どんな生き方をするにせよ、社会とは関わらざるを得ないもの。そのための便利なツールの一つです。「何か一つ新しいことを始めたい」でしたら簿記はお薦めです。

友人の影響で始めた簿記でしたが、週2回通う夜間学校で勉強仲間ができました。皆、会計士や税理士試験合格を目標にしています。簿記の考え方にハマった私は、仲間と一緒に税理士試験の会計科目に挑戦しました。更に簿記の知識を土台として法人税法も学び始めました。そこで企業経営の目的など、経済の概論にも触れ今まで知らなかった目線が開かれ始めました。学びが本当に楽しかったことと仲間ができたこと。これにより私は順調に資格試験を突破しました。

振り返ると、学生時代は学校で学ぶ科目に興味のカケラを感じることがありませんでした。強いて言えばデザイン系。でもその先の道を探ることもせず、ただ時間を浪費しながら、彷徨っていた。何か情熱を注げるものを見つけたいけど見つからない。そんな自分に価値を感じることもできなかった。当然ですが就職した仕事にも興味は持てず、今思うと働いてもらいたくない社員でした。

楽しく夢中になっていた一方で、残念なことが起きました。友人の役に立てればとの思いで始めた勉強にのめり込む私と、勉強が思い通りに進まない友人との間に距離ができてしまったのです。それでも税理士を自分の目標と定めて更に挑戦したのですが、待ち受けていたのは、法人税以外の税法科目の取得でした。しかしそれに興味を持つことができなかったのです。所得税・相続税…全然面白くない。税理士・会計士は、そもそも友人の夢でした。私が自分で見つけて目標にしたのではありませんでした。それに自分の夢を重ねたことが間違っていました。税理士資格取得に興味を失くした私はそこからまた振り出しに戻りました。

しかし、学んだ簿記会計の知識はその後とても役に立ちました。むしろこれを学んだことで、自立して生きるという人生を選択できるようになったとも言えたと思います。