思うことが才能なのよ

大分昔の話です。NHKテレビで「ようこそ先輩」という番組がありました。毎回著名人が出演し、母校で課外授業をするという内容でした。その回は瀬戸内寂聴さんが出演されていました。

女子生徒が寂聴さんに質問をしました。
「私、社会科の先生になりたいんです。なれるでしょうか」
寂聴さんは間髪を開けずに笑顔で答えました。
「大丈夫、あなたなれるわよ。思うことが才能だから」

 私にはその会話が深く心に響きました。
そうか、思うことが才能なんだ。だからその思いを目標にしていけばいいのだと。

前後の内容は全く覚えていません。でも私にはとても納得がいきました。私が社会科の先生になりたいと思ったことは一度たりともありませんでしたし、その先の人生でもないだろうと思いました。それなのにその女子中学生は心からそう願っている。
つまり、少しでも思ったとしたらそれがその先の未来への入り口かもしれないと。とすると私にも思い当たる仕事がありました。
それは、デザイナーでした。

小学生高学年でそういう名前があるらしいとちょっと知り、全てを分かったわけでもないのに、かっこいいと思い強く惹かれました。小学生の私にとって、それは遠い憧れでしたので、願い続けることをせず、高校生になる頃にはすっかり忘れ、普通に進学して就職しました。その後時々懐かしく思い出すことはありましたが。

そして年月は流れ、50歳を前に自分の力で生きて行こうと人生の再出発をしました。 無計画でしたのでその歳になりやっと、何が自分の能力で何なら人に価値として提供できるのかを問い続ける日々に直面しました。経験したものを活かそうにも上手くいかず、輝かしいはずの再出発はたちまち自信のない不安の日々へと暗転しました。

その時に出会い心を支えてくれたのが先程の言葉です。寂聴さんが言うのだからそうなのだと、自分に無理矢理信じさせてきました。ですから偉そうに言える立場ではないのです。そして今の暮らしを見ると、夢中になって物作りをしている自分がいます。そう今私はデザイナーという職業になっているのです。

思うこと、それ自体に根拠があるとか理屈で説明できるものではない場合が多いと思います。でもなぜか心が大きく揺れるのです。惹かれるのです。自分の内面から突き動かされる思いです。その言葉により私の人生は、思いを道標として進む生き方に軌道修正をした感じです。

その軌道修正は簡単ではなくかなり時間もかかりましたし、悲しかったり悔しかったりなんて思いも結構しました。でも今は自分らしく生きているかなと感じています。

などと長々書き連ねまいたが、単にそう思う年齢になっただけの事かもしれません。

としたら、歳をとるのは素敵な事だと言えますよね。
拙い文ですが、最後までお読みいただきありがとうございました。